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移動 ベルリン

 朝起きて食堂に行くと、T氏はすでに席に付いてコーヒーを飲んでいた。朝食はバイキング方式になっていて、ハムやチーズまであった。いままでの宿での朝食は、パンとオレンジジュースとコーヒーだけのごく簡単なものだったので、びっくりしてしまった。僕は贅沢に飢えていたので、ここぞとばかりにハムとチーズをお皿に盛った。久しぶりのしっかりとした朝食を味わうと、僕はシングルの部屋でしばし考え事をした。旅をしていると漠然とこれからについて考える時がある。これからどうしようか。所持金を確かめてみるとやはりあまり余裕がない。T氏と一緒にいるのはとても楽しい。この部屋は快適だが、やはり僕には少し贅沢だ。僕はふとパリのバックパッカーホステルでもらってきたチラシを思い出した。ベルリンにそこと提携している宿があるのだ。一泊25DM。ここの半額だ。街の中心部とも近い。僕は迷った。T氏は自分の部屋であいかわらず自分の音楽に埋もれている。ノックをしてみたがヘッドフォンをしているらしくて気付かない。仕方なく僕は宿を出て予約をするため、公衆電話を探しに出てみた。いざ電話が繋がると、とても感じの良い男性が出てスムーズに僕のベットを確保してくれた。2時までに来てくれればオーケーだと言う。不思議な程自然に事が進んでいる。僕は宿に帰りながら考えた。せっかくT氏がホテルを紹介してくれたのに僕は一人で宿を変えようとしている。少し後ろめたい気がしてきた。とにかくT氏と話をしなくては。
 宿に戻って彼の部屋をノックしてみた。やはり出てこない。もう一回ノックする。やはり聞こえないのか。多分彼はヘッドフォンの中で、自分の音楽の世界に包まれているのだ。少し途方に暮れてしまった。アーティストというのは時に自分の世界に没頭してしまう。困ったものだ。僕は悩んだが思いきってドアを開けて中を覗いた。案の定彼はヘッドフォンの中の世界にいた。とても気持ちよさそうだったが、僕は構わず彼の肩を叩いた。すると少し驚いた顔で振り向いた。

「This is good music」

 そして僕にヘッドフォンを貸してくれた。聴いてみると、とても優しい音楽だった。そう伝えると彼は満足そうな顔でうなずいた。しかし僕は音楽を聴きに来たのではない。彼に話をしなくては。僕は思いきって彼に次の宿の手配が出来た旨を伝えた。彼は一瞬残念そうな顔をした。僕はもし良かったらもう一つベットがあるか聞いてみようかと思いきって提案してみた。T氏は自分の部屋を見回して一瞬迷ったが、しばらくしてうなずいた。僕は急いで先ほどの公衆電話に向った。するとさっきと同じ男性が出た。彼は僕の声を覚えていて、どうしたんだい?と尋ねてきた。実は友だちの為にもう一つベットを追加したいという旨を伝えると、しばらく台帳を調べた後、快く承諾してくれた。僕は少し不思議な気持ちになる。いままで宿を取る度にうまく行かなかったことが多かった。今回は驚く程スムーズに流れている。これは単なる偶然なのかのだろうか。僕に出来る事は、素直にその流れに乗る事しかないかも知れない。

 しかしこれは大移動だった。なにより彼の荷物が多いのだ。少し気が重くなる。でも行かなくては。僕は彼のボストンバックを今度は一人で担いだ。そうするべきだと思ったからだ。僕の荷物は彼に比べて全然少ない。それでもまだ彼の荷物の方が重いくらいだ。
「share」
僕達は目的地までの時間を共有しなくてはならない。それを分け合わなくてはいけないのだ。求む求まざるに関わらず、僕らはそこまで共に歩かなければならないのだ。しかし彼の荷物は重い。ボストンバックの中には音楽の機材が詰まっている。肩にしっかりとその重さが伝わってくる。やっとの思いで地下鉄の駅に到着すると、彼はいつもの調子で足早に歩き出す。そう言う時はもう付いて行くしかなかった。彼に続いて車内に乗り込む。向っている方向が正しいのかはもうどうでも良かった。僕はただ無事に着いてくれればそれで良かった。ふと車内の路線図を見て、目的の駅まで7つ目だと確認すると、彼はいや5つ目だ、君は間違っていると強く否定した。線路がエコーのように静かに響く。
 しかし実際着いた駅は6つ目だった。


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